『殻をもたない貝−アメフラシ−』
葛西臨海水族園 浅野 晃良
アメフラシはアマモ場や磯でみられるウミウシの仲間で、大きさは15cm程度ですが30cmを超えることもあります。アメフラシの名は「雨降らし」からきています。この由来には、つつくと紫色の汁を出し、水の中で広がる様子が、空に雨雲がみるみる広がっていく様子に似ているからという説や、雨が降ると岩場にアメフラシが集まるからという説などがあります。後段の説については、アメフラシが産卵のために岩場に集まってくる時期が、ちょうど梅雨であることと関係があるかもしれません。
アメフラシは大きなナメクジのような形をしていますが、「殻を持たない貝」ともいわれ、背中にかつて巻貝だったころの殻の名残を持っています。また、主に海藻を食べますが、その時「歯舌」(しぜつ)という特別な歯を使って削り取るようにして食べます。この歯舌はサザエなどの巻貝にもあり、このような特徴からもアメフラシが貝の仲間であることがわかります。
さて、春から初夏にかけて磯に行くと、黄色からオレンジ色のひもを丸めたようなものがしおだまりで見られます。これは「うみぞうめん」といってアメフラシの卵塊です。このひも状の塊の中に数万の卵が入っており、2週間ほどで孵(かえ)ります。孵化した幼生はしばらくプランクトン生活をし、やがて海底に着底します。
「うみぞうめん」を食べる習慣もあるのですが、現在「うみぞうめん」として食べられているのはアメフラシの卵ではなく紅藻の一種だそうです。
春から初夏にあたる今の時期、アメフラシに出会うには丁度良い季節です。磯に出かけたら、ぜひしおだまりをのぞいてみてください。運が良ければ「うみぞうめん」にも出会えるかもしれません。