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イキモノのイキな話78

猿

『猿 ―猩猩を彷彿とさせる動物―』

多摩動物公園 由村泰雄

 猩猩とは、日本の古典書物に記された架空の動物です。江戸時代中期に編纂された日本の百科事典である『和漢三才図会』の中にも、毛足が長く直立二足歩行している猩猩が描かれています。つまり森の猩猩とは、山深い森林に生息する、人に似たふしぎな生き物ではないかと想像できます。

 私は10年ほど前に、奥多摩駅から東京都最高峰の雲取山山頂に向けて石尾根を歩いていました。ちょうど前衛の山である鷹ノ巣山の手前あたりの樹林帯を歩いていると、3mほど頭上の木のこずえ左方から、何かが覗き込んでくるような視線に気が付きました。その眼に敵意はなく、こちらが何者であるか興味深げに覗き込んでいました。視線の主は2、3歳と思われるニホンザルの子供でした。

 山中で眺めた子猿の茶色は、森の木々の葉の緑色と素晴らしくなじんでいました。周りには私のほかに登山客はなく、また子猿も威嚇の声を上げることなく静かにこちらを見続けていました。私は静けさの中で、猩猩とはまさに彼らニホンザルのことだなと思いをめぐらしていました。

 すると、子猿が見えるさらに左の方で木の枝葉が揺れる「がさっ」と言う音が聞こえました。猿の群れのほかの仲間がそばにいるのでした。木の枝から葉が落ちてしまう冬を除くと、ニホンザルの姿を目視で発見するのは難しいのです。

 野外でのニホンザル観察で大切なのは、木々の枝葉が揺れる動きやその音から、猿たちの存在を察知することです。私を見ていた子猿は、私が特に面白いやつではないと見抜いたかのように、私から見て右手の鷹ノ巣山山頂の方向に仲間たちと一緒に消えて行きました。

 森で見たそのニホンザルの存在感に、私は大きな感動を覚えました。動物園でも、このようなニホンザルの野生の姿を伝える展示ができたらと願っています。



〜動物園の"かお"〜

井の頭自然文化園 ツシマヤマネコの「ノリ」

ツシマヤマネコ

 10月に再公開したツシマヤマネコのメスの「ノリ」です。
ぜひ会いに来てください。